横浜地方裁判所 平成8年(ワ)1772号 判決 1999年8月26日
原告
長谷川光雄
右訴訟代理人弁護士
田中恒朗
同
西川茂
被告
オリエント貿易株式会社(以下「被告会社」という。)
右代表者代表取締役
白鳥忠志
被告(以下、各被告を「被告小野」のようにいう。)
小野政博
外三名
右五名訴訟代理人弁護士
水谷昭
同
松本美恵子
同
松本啓介
主文
一 被告らは、原告に対し、各自、五四四万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その八を原告の、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告らは、原告に対し、各自、二八二三万四二一七円及びこれに対する平成八年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 事案の要旨
本件は、原告が、平成七年一二月一三日、被告会社との間で商品先物取引委託契約を締結し、同月一九日から平成八年四月一二日までパラジウム、関門コーン、東京コーン等の商品先物取引(以下「本件取引」という。)を行ったところ、被告らの手数料稼ぎを意図したいわゆる「客ころし」の取引勧誘により二四七三万四二一七円の損害を被ったとして、被告らに対し、不法行為を理由に右損害及び弁護士費用三五〇万円の賠償を求めた事案である。
二 前提事実
以下の各事実については、証拠等を後掲した事実は当該証拠等によりこれを認め、その余の事実は当事者間に争いがない。
1 当事者
(一) 原告は、昭和三九年二月二五日生まれで、昭和五七年三月、埼玉県立越生工業高等学校建築科を卒業し、地元のYKK川越工場に一年間勤め、さらに狭山市の自動車板金工場に八年間勤務した後、平成三年六月から、現在の住所地において、「ボディショップハセガワ」という商号で各種自動車板金・塗装業を営む者であるが、商品先物取引はもとより、株式等投機性のある取引の経験は全くなかった(甲一〇、乙二、原告本人、弁論の全趣旨)。
(二) 被告会社は、商品取引所法に基づく商品取引所に上場された各商品の先物取引の受託業務等を目的とする会社であり、東京穀物商品取引所、関門商品取引所、神戸生糸取引所、東京工業品取引所、神戸ゴム取引所等の会員であり、商品取引員の資格を有する。
本件取引当時、被告小野は被告会社横浜支店営業部次長、被告浦浜は同支店課長、被告大池は同支店係長、被告梶原は同支店主任の各地位にあり、いずれも被告会社の外務員たる資格を有する者であった。
2 本件取引の概要
原告は、平成七年一二月一三日、被告会社との間で、商品先物取引委託契約を締結し、同月一九日から平成八年四月一二日まで、別紙一「取引一覧表」記載のとおり、本件取引を行った。
原告が、本件取引に関し、被告会社に預託した金額及び被告会社から返還を受けた金額は、別紙二「原告の出損額と返還を受けた金額一覧表」記載のとおりであり、差引二四七三万四二一七円の損失を被った。
原告は、本件取引に、約二五〇〇万円の資金を投下したが、そのうちの約二三〇〇万円は工場増設のための借入金三〇〇〇万円から流用したものである。
本件取引に関し、被告会社が得た手数料収入は一五一九万円余りである。
本件取引のうち、当初の勧誘は被告梶原が、平成七年一二月一九日から平成八年二月二〇日までの取引は、主として被告大池が、同月二一日から同年四月一二日までの取引は主として被告浦浜がそれぞれ担当し、被告小野は横浜支店の支店長として本件取引を統括した(甲一〇、乙三七、四〇、四一、原告本人、被告大池本人、同浦浜本人、弁論の全趣旨)。
第三 原告の主張
一 本件取引の違法性
本件取引は、形式的に見ると、原告の意思に基づき一見適正になされたように見える。しかしながら、原告は、商品先物取引については全くの素人であり、相場の動向や追い証がかかった場合の対処法等について自己の責任で判断する能力を欠いていたことは、本件取引の全過程の中で、自らの発意で取引したことは一度もなかった事実に如実に示されている。本件取引の実態は、原告の人柄の良さ(被告らは、原告をおおらかな人と評価していた。)につけこみ、被告らが手数料稼ぎを意図して原告を過当な取引に引き入れ、商品先物取引の初心者である原告をして、取引後わずか二、三か月の間に一〇〇枚から三〇〇枚の建玉をさせ、結局、トータル四か月足らずの取引期間中に、委託証拠金として二五〇〇万円を超える資金を拠出させてほぼ同額の損失を被らせる一方、被告会社は本件取引により合計一五一九万円余りの手数料を手にした、というものであり、いわゆる「客ころし」を絵に画いた事案である。しかも、原告が本件取引に投下した資金は、工場増築のために金融機関から借り入れた三〇〇〇万円の大半であり、原告は、本件取引の勧誘を受けた際に被告梶原、同大池にその旨を告知し、被告らは資金の性格を十分承知した上でこれを本件取引に投下せしめたのであり、同種先例と比較しても極めて悪質なケースと言わなければならない。
被告らは、新規顧客については、三か月間の習熟期間を設け、この間は建玉を原則として二〇枚に制限し、新規委託者が不測の損害を被らないよう配慮した受託契約準則等を無視し、会社ぐるみで客ころし商法に邁進したのであり、原告はこれに盲従したにすぎない。
本件取引について自己責任の原則が適用されるべきではなく、本件取引が全体として違法であることは明らかである。
以下、各論を述べる。
二 委託証拠金の不徴収
受託契約準則八条は、取引の受託については、委託者から担保として委託証拠金を徴収しなければならない旨定めている。また、社団法人全国商品取引所連合会制定の「受託業務指導基準」(甲七の四)も同様の定めをしている。委託証拠金は、商品取引員が委託を受けた取引につき、将来委託者に対する債権が発生した場合にそれを担保する企業防衛的な意義をもつほか、委託者が安易に商品先物取引に手を出したり、過当な投機に出ることを抑制する機能を有するものであるから、それを徴することは商品取引員の義務である。
然るに、平成八年一月四日の関門コーン七枚、二月二日の関門コーン七枚、二月七日の東京コーン一四枚、二月八日の東京コーン七枚、二月一四日の東京コーン二二枚、二月一五日の東工金一二枚、二月二三日の関門コーン一八枚及び東京コーン七枚、二月二六日の神戸ゴム一〇枚、三月六日の関門コーン三七枚、三月八日の東京コーン一〇枚の各取引は、いずれも被告会社が、原告から委託証拠金を徴することなく行われたものである。
委託証拠金の不徴収が直ちに本件取引の効力に影響を及ぼすものではないが、本件取引を鳥瞰すれば、それは商品先物取引の初心者たる原告をして多額の商品取引に引き込むための手段の一環であったと言わざるを得ない。
三 無意味な反復売買(ころがし)
1 ころがしとは、短日時の間に頻繁な建落ちの受託を行い、または既存玉を手仕舞うと同時に、あるいは明らかに手数料稼ぎを目的とすると思われる新規建玉の受託を行うことをいう。
本件取引は、取引開始から手仕舞いまでの一一五日間に、取引回数四八回(二・四日に一回)、取引数量二二三〇枚、委託証拠金総額(利益金振替額を除く純出捐額)二五八四万二四二一円、損金二四七三万四二一七円、委託手数料の総額は一五一九万円余であり、損金に占める手数料化率は33.72パーセントという高率になっている。
平成八年二月初めまでは、一月九日の関門コーンの暴落の処理の点を除けば、比較的平穏に推移したものの、二月中ころ以降は、コーン、小豆、生糸、ゴム、金、及びパラジウムと取引の範囲、数量、及び回数を急激に拡大させた。利益が出ると、それを証拠金に回して新たな取引に誘導し、剰余金を返還せず、損失が出ると「追証拠金を防ぐため」として両建や難平をさせ、またはこのままだと元も子もなくなると脅し、証拠金や追証拠金を追加出捐させ、値を戻して追い証が外れると、それを証拠金に回して新たな取引を行わせるという方法でとどまるところを知らないものであった。
2 また、「買い直し」「売り直し」「途転」「日計り」「両建玉」「不抜け」等の取引形態を「特定売買」といい、農水省、通産省によりチェックを受けるものであるが、本件において、特定売買の件数は、売り(買い)直し四回、途転四回、両建玉七回、不抜け三回の計一八回にも及び、特定売買比率(特定売買回数/合計延べ回数×一〇〇)は、取引開始から三か月間において、33.33パーセントにも及んでおり、手数料稼ぎを狙った明らかに違法な行為である。
四 不適切な「両建玉」
1 商品先物取引における両建玉とは、同一商品について、売り又は買いの新規建玉をした後(また同時)に、反対の買い又は売りの建玉をして、双方を保持することである。両建には同一限月の場合と異なる限月の場合(限月違い両建)とがある。また、本件のコーン取引のように同一商品について取引所を異にする両建も行われる。
両建玉は、元の建玉に損失が発生している場合、これを行うと、元の損失が固定される。元の建玉に追い証の必要がある場合でも両建をすると値洗い損が緩和され追い証を免れることになるが、一方、反対建玉の委託本証拠金が必要になり、最終的に双方の建玉を決済した場合の手数料等の負担が倍額となる。決済により益金を出すには、元の建玉に追い証が必要とならない時期に、値洗い益が出ている反対建玉の値段がその相場の天井(買建玉の場合)又は底(売建玉の場合)であることを判断した上で行う必要があり、このような相場判断は単独建玉の場合よりはるかに困難なことである。
両建は、損益を固定しているのであるから、いずれは相場状況を判断して、玉を縮小して、いずれかに比重を置く方法で整理するものである。取引の過程において一時的に両建を生ずる場合はともかく、両建を継続して損益を固定することは投機を目的とする商品取引の趣旨に反するものであり、委託者は売買手数料その他の倍額負担という損失を被るのみならず、利の乗った建玉のみを仕切り、損失の生じている他方の建玉を放置して委託者の損勘定に対する感覚を誤らせる手段ともなるから、旧「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」は明文をもってこれを禁止しており、現行の「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項(全商連決定事項)」(甲七の五)も「不適切な取引行為」の一環としてこれを禁じている。
2 本件取引におけるコーンの両建の実態
平成八年二月七日になされた東京コーン売建玉一四枚は、既存の関門コーン買建玉一四枚との両建である。その後、コーンの両建は、売買決済を繰り返しながら同年三月二九日に関門コーン売建玉一二〇枚の決済により売建玉の残玉が零となった時点まで継続し、対応する枚数につき常時両建の状況にあった。更に同年四月一日、関門コーン買建玉一〇〇枚を決済し、東京・関門コーン計一六四枚の売建玉に途転し、同月二日、被告小野の指示に従い右売建玉を一部決済して関門コーン一〇〇枚新規買付けによりコーン両建を復活し、そのまま同月一二日の全部手仕舞いに至った。
五 無断売買
平成八年三月二五日の関門コーン五〇枚の売り決済、同一〇〇枚の買い決済、同月二七日の関門コーン九〇枚の新規売付けは、原告の委託を受けることなく被告らが勝手に行った取引(無断売買)である。
すなわち、原告が同月二七日に被告会社に預託した七九九万四五三九円につき、被告らは、原告が新たな取引の資金として預託したものである旨主張するが、全く事実に反する。原告は、同月一八日の関門コーン一〇〇枚新規売付けの委託証拠金(不足金)として、同月二七日、被告会社に右金員を預託したのであるが、実際には同月二五日に関門コーン一五〇枚が被告らによって勝手に決済され、不足金は既に消滅していたのである。被告らは、原告に無断で建玉を決済し、不足証拠金を消滅させていたにもかかわらず、原告が同月二七日に不足証拠金七九九万四五三九円を準備したのを奇貨として、右決済事実を秘し、更に原告に右金員を預託させたのである。
第四 被告らの認否反論
一 本件取引はすべて原告の判断と責任の下に行われた。
1 本件取引前に原告に商品先物取引の経験がなかったことは認める。
2 しかしながら、被告会社は、本件取引の勧誘に当たり、三回にわたって、商品先物取引の仕組みとリスクについて資料等に基づき原告に説明し、原告は、これを十分理解した上で、本件取引を行った。すなわち、被告梶原は、平成七年一一月二二日、初めて原告と面談した際、パラジウム先物取引ガイド(甲一の四)、業界新聞(甲一の五)を交付して商品(パラジウム)先物取引の仕組みとリスクについて説明した。次いで、同年一二月一三日、被告大池と同梶原が原告方を訪問し、被告大池が、商品先物取引委託のガイド(甲一の一)、同別冊(甲一の二)、受託契約準則(甲二)等を交付して再度商品先物取引の仕組みとそのリスクについて説明した。ことに、そのリスクについては、委託のガイドの「危険開示告知書」の表題と第二項の「全額損失となり戻らないことになることもあります。」の部分をペンで囲んで強調した。
原告は、右説明を聞いた上で、「自己の判断と責任において取引を行うことを承諾した」旨記載された「約諾書」(乙一)を差し入れ、被告会社との間で基本契約を締結した。
さらに、同月一八日、被告梶原と被告会社管理部社員廣瀬康正(以下「廣瀬」という。)が原告と面談し、廣瀬が、「カイケツZORO」(乙七)というパンフレットを交付し、管理部の役割(営業を監視し、顧客からの苦情、相談を受ける部署であること)について説明した上、「商品取引の手順と流れ」(乙九)及びビデオ放映(乙三六)により再度商品先物取引の仕組みとその危険性について説明し、原告からビデオ放映確認書(乙八)に署名押印をもらった。
3 被告らは、個々の取引に当たっては、常に事前に電話又は面談により原告に相場の状況及び対処法を説明して原告の判断を仰ぎ、取引が成立するつど電話でその旨連絡するほか、売買報告書(甲三)や残高照合通知書(乙三五)を送付したが、本件取引期間中を通じ、原告からこれらに異議が述べられたことは一度もなかった。
取引開始後一か月を経過した平成八年一月二三日、廣瀬が、再度原告と面談し、前日までの取引内容を確認したが、原告からクレームはなく、原告は、同日付け残高照合回答書(乙三四の一)に署名捺印した。
4 本件取引は、別紙三「値洗い、帳尻金及び預り証拠金等の状況対照表」の「実損益概算」欄(これは、その時点で取引を終了した場合の損益状況を示す。)を見れば明らかなように、取引開始から平成八年二月中まではずっと損失が継続し、同年三月一日初めて利益に転じ、同月一四日までは利益が続いたが、同月一八日再び損失に転じ、同年四月五日以降相場の動向を見誤ったために、損失がかさんだものであり、原告の主張は結果論にすぎない。
5 原告は、原告が商品先物取引の初心者であったことを問題とするが、習熟期間中の枚数制限は絶対的な禁止ではなく、顧客の資金力、判断力とその人柄を含めた総合判断によりケースバイケースで判断されるべきものであり、原告については、取引開始に当たり廣瀬が面談し、取引責任者の被告小野が問題ないと判断したものである。また、平成八年二月半ば以降取引が拡大したのは、相場の変動に対応した結果としてそうなったものであり、手数料稼ぎを意図したものではない。
6 被告らが原告から平成八年四月には一〇〇〇万円の資金が必要であると告知されたのは、同年三月末であり、被告らは、原告が工場増築のための借入金を本件取引に流用したことは知らされていない。
7 原告は、本訴において無知を装っているが、本件取引はすべて被告らのアドバイスの下、原告の判断と責任においてなされたものであり、原告も納得づくであった。
8 仮に、原告の主張が認められる場合には、大幅な過失相殺がなされるべきである。
二 委託証拠金の不徴収について
委託証拠金の目的は、主として商品取引員の委託者に対する受託契約から生ずる債権を担保するものである。したがって、相場状況や委託者の入金状況に対する信頼度から、商品取引員のリスクにおいて、入証が遅れることを認めたとしても、そのことによって、当然に受託行為が違法となるものではない。
本件取引については、証拠金の入証が遅れているものも若干あるが、それは、原告が必ず入証する旨約束し、被告会社としては、原告への入金の信頼度もあったことからこれを認めたものであり、その受託行為を違法と評価することはできない。
三 無意味な反復売買(ころがし)について
1 前記一で述べたように、被告梶原及び同大池は、原告に対し、商品先物取引の説明を十分にしているし、廣瀬も、管理部の立場から原告と面談して、原告の商品先物取引の理解度について確認している。
また、取引枚数についても、その都度、相場状況を勘案しながら、原告と打合せをして、原告の意向を受けて行っているものであって、いたずらに取引枚数を増やし、取引を反復させたものではない。
2 原告は、本件取引について特定売買比率を問題とするが、農水省のチェックシステムは、商品市場ごとに、各商品取引員の特定売買比率と、これから算出した全商品取引員の平均値とを対比して、当該商品取引員の一般的営業姿勢を評価するものであり、各委託者ごとの売買状況について、その当否を評価するものではない。個別委託者の特定売買状況は、相場動向、委託者の相場判断、損益状況、資金状況等の諸要素が絡んでなされているのであるから、右数値によって、各個別の取引の適否を判断することは的外れである。
四 不適切な「両建玉」について
原告は、「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」が、両建を勧めることを禁止している旨主張するが、右主張は不正確である。右指示事項が禁止するのは、委託者の手仕舞いの指示が出ているにもかかわらず即時に履行しないで両建を勧めることであり、委託者から手仕舞いの指示が出ていない場合に両建を勧めることまで禁じるものではない。
本件取引において、被告らが、原告に対し、両建を勧めたことがあるのは事実だが、その際、原告から手仕舞いの指示が出ていたわけではなく、また、その時々の相場の状況に応じて判断し、検討した上で両建を勧めたものであり、それぞれ意味のある取引であるから、何ら禁止される行為には当たらない。
五 無断売買について
1 平成八年三月二五日の取引
原告は、同月一八日に発生した七九九万四五三九円の不足証拠金を同月二五日に支払う旨約束していたが、同日までに資金の用意ができず、二七日まで待ってほしいと要請した。しかし、被告浦浜は、二五日までに入金がなかったことから、原告に対し、建玉を一部縮小して証拠金不足を解消することを求めたところ、原告も、これを了承し、被告浦浜とその縮小する建玉内容を打ち合せた結果、関門コーンの買建玉五〇枚と売建玉一〇〇枚を決済することとなり、二五日、右取引が行われたのである。
被告浦浜は、原告に対し、右取引が成立したこと及びこれにより七九九万四五三九円の不足金が解消したことを報告した。
原告は、同月二七日付けの残高照合回答書(乙三四の三)において、右取引に異議がない旨を回答し、かつ、本人尋問においても、一部の建玉の調整がなされたことを自認している。
2 平成八年三月二七日の取引
原告は、同日入金した証拠金七九九万四五三九円について、同月一八日に発生した不足証拠金として入金した旨述べているが、右供述は事実と異なる。
右不足金は、前記のとおり、同月二五日に建玉を縮小したことにより解消されたが、原告が同月二七日に右金額を用意できたため、原告と被告浦浜との話合いの結果、新たな取引資金として、再度やり直すということで、原告が、被告会社に対し、当初不足証拠金として予定されていた金額をそのまま新たな取引資金として預託したのである。新たな取引資金額が、右不足金額と同額であったのはこのためである。
この日の時点において、関門コーンは、買建玉が一〇〇枚あり、これを決済して、その余剰証拠金を利用して新規売付けをすることとなっていたが、買建玉の決済について指値をしたところ、指値が入らなかった。そこで、再度、被告浦浜が、原告に対し、電話で打ち合せた結果、この日新たな取引資金として入金した前記七九九万四五三九円を利用して、関門コーンの新規売付けをすることとし、原告は、被告浦浜に対して、右注文を委託したのである。
そして、右取引について、被告会社は、原告に対し、売買報告書(甲三の三四)を送付して、取引の成立とその内容を報告しているが、原告からは、何らの異議もなく、かえって、原告は、右取引を前提として、その後の取引を継続している。
以上から、平成八年三月二五日及び同月二七日の取引が無断売買でないことは明らかである。
第五 争点に対する判断
一 争いのない事実と証拠(甲一ないし六、一〇及び一三の各一部、一八、一九の一部、乙一ないし三、七ないし九、一二ないし四三、証人廣瀬、原告本人の一部、被告梶原本人、被告大池本人、被告浦浜本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 原告が被告会社と取引を始めた経緯等
(一) 被告梶原は、原告に対し、平成七年一一月七日ころ、電話で商品先物取引を勧誘し、原告との面談の約束を取り付け、同月二二日、原告宅を訪問し、原告に「パラジウム先物取引ガイド」(甲一の四)、「平成六年一〇月四日付け業界新聞」(甲一の五)等を交付した上、商品先物取引の仕組みとリスク、パラジウムの過去の値動きとその変動要因(材料)について説明し、自分の相場観として「目先パラジウムは上がると思う。」と述べてパラジウムの買付けを勧めたが、原告が「考えてみる」と回答したため、それ以上無理強いせず、「明日の朝刊から新聞紙上でパラジウムの値段を見ておいてください」と言って辞去した。
(二) 被告梶原は、同年一二月一三日、パラジウムの値段が動いたので原告に電話をして取引を勧めたところ、原告は、取引をする意向を示した。そこで、同日、被告梶原及び同大池は、原告の会社事務所を訪問し、被告大池が、原告に対し、「商品先物取引委託のガイド」(甲一の一)、「商品先物取引委託のガイド別冊」(甲一の二)、「受託契約準則」(甲二)、「委託証拠金表」(甲一の三)等の資料を交付して、取引単位、限月、追い証等商品先物取引の仕組みとそのリスクにつき、同年一一月二二日の被告梶原の説明よりもやや詳しく説明した。その際、被告大池は、右委託のガイド中の「商品先物取引の危険性について」という表題及び第二項の「全額損失となり戻らないことになることもあります。」との記載をボールペンで丸く囲み、商品先物取引のリスクを強調した。
原告は、右説明を聞いた上で、取引することを承諾し、受託契約準則に綴じ込まれた「自己の判断と責任において取引を行うことを承諾した」旨記載された「約諾書」兼「通知書」に所定事項を記入し、署名捺印をして、被告会社との間で商品先物取引委託契約の基本契約を締結した。その際、原告は、被告会社が新規の顧客に実施しているアンケートに回答した(乙二)。
原告は、取引を開始するに当たり、一五〇万円程の資金を用意できると述べた。
(三) 被告梶原及び廣瀬は、平成七年一二月一八日、原告と面談し、廣瀬が、原告に対し、「カイケツZORO」(乙七)と題する管理部の内容を説明したパンフレット及び「商品取引の手順と流れ」(乙九)を交付し、商品先物取引の内容、危険性等をわかり易く説明したビデオ(乙三六)を放映して、商品先物取引の仕組みとリスクについて説明し、被告会社からは「売買報告書」、証拠金が不足した場合には「証拠金等不足額請求書」、「残高照合通知書」が送付されるので、これらを必ず確認することを依頼した。最後に、原告は、ビデオ放映確認書(乙八)に署名捺印した。
廣瀬は、原告につき、会社を経営していること、会社事務所には車が何台も止まっており、板金の仕事も順調にいっていると見受けられたこと、性格が温厚であること、追い証、難平、両建等について理解したようで、特に質問もなかったことから、二〇枚を超える取引をしても大丈夫であると判断した。
原告は、同日、被告梶原に対し、パラジウム三〇枚分の本証拠金として一四八万五〇〇〇円を預託し、同被告は、原告に対し、委託証拠金預り証(乙一九)を交付した。
2 本件取引の具体的経緯
(一) 平成八年一二月一九日
被告大池は、原告に、パラジウム三〇枚の注文をもう一度確認し、新規買付けを受託した。右注文は、同日、約定値段四三六円で成立した。
取引が成立したことは、原告に対し、電話でその旨が通知され、かつ、売買報告書(甲三の一)が郵送された(この点は以後の取引についても、同様である。)。
(二) 平成八年一月四日
被告大池が、原告に電話で、コーンが値上がりしそうだから買わないかと勧誘し、委託証拠金七〇万円(一枚一〇万円で七枚分)を被告会社で立て替えておくというため、原告は右買付けを承諾した。
右注文は、同日、約定値段一万八二六〇円で成立した(甲三の二)。
(三) 平成八年一月九日
被告大池は、同月四日建玉の関門コーンの委託証拠金七〇万円の預託を受けるために、原告の事務所を訪問し、原告から右七〇万円の預託を受け、引換えに預り証(乙二〇)を交付した。
同日、平成八年一二月限の関門コーンは前場一節からストップ安になっており、そのままストップ安が続くと、原告の一月四日建玉の関門コーン七枚に追い証が発生する事態となっていたため、被告大池は、原告に対し、右状況を報告した上、その対処について打合せをし、一時的な下げとの見通しから追い証で対処することを勧めた。
関門コーンは、そのまま大引けまでに値段が戻らず、原告の建玉に一回目の追い証が発生した(乙三三の一)。
(四) 平成八年一月一〇日
原告は、前日発生した関門コーンに対する追い証三五万円をすぐに用意できなかったため、預けている金で何とかならないかと述べ、被告梶原と協議した結果、平成七年一二月一九日に買ったパラジウム三〇枚のうち二〇枚を売って、その証拠金を関門コーンの追い証に回すこととなり、原告は、被告梶原に、その旨注文した。
右注文は、約定値段四三六円で成立した。
最初の決済は、買値、売値同額であったが、手数料と税金を控除されたことにより一一万九七四〇円の差引損金となった(甲三の三)。
(五) 平成八年一月一六日
被告会社横浜支店から、原告の銀行口座に、一月一〇日の決済の結果、余った証拠金一七万〇二六〇円が振込み送金された(乙二一)。
(六) 平成八年一月二三日
廣瀬が、原告方を訪れ原告と面談し、残高照合通知書やケイ線を見せながら取引状況の説明を行った。原告から今手仕舞ったらどうなるかという質問がなされたため、廣瀬は、手数料や税金の詳しい計算方法、返還可能額、有効保有金の意味について説明した。廣瀬がこれまでの取引について問題はないかと問うたところ、原告は、ないと答え、同日付けの残高照合回答書(乙三四の一)に署名押印した。
(七) 平成八年二月二日
平成八年一月末ころから関門コーンの値段が上がってきて、原告の建玉値段近くに回復したため、関門コーンにかかっていた追い証が外れた。また、パラジウムも、そのころから値上がり傾向を示してきた。
被告大池は、原告に、関門コーンとパラジウムの値上がりが期待できるとの理由で新規買付けを勧め、これに応じて原告は、被告大池に対し、関門コーン七枚及びパラジウム二〇枚の新規買付けを委託した。
原告の右注文は、同日、関門コーンについては約定値段一万八四七〇円で、またパラジウムについては約定値段四六七円でそれぞれ成立した(甲三の四)。
関門コーン七枚の本証拠金七〇万円については、関門コーンの追い証として預託していた七〇万円を充てたが、パラジウム二〇枚の本証拠金九九万円については、原告は二月七日に支払うということで、被告大池は了承した。
同日午後、被告大池が、原告方を訪問し、原告に残高照合通知書を交付した。原告は、取引内容及び証拠金状況を確認した上で、残高照合回答書(乙三四の二)に署名捺印した。
(八) 平成八年二月六日
関門コーンが値下がりし、大引けで原告の建玉に追い証が発生した(乙三三の二)。
(九) 平成八年二月七日
被告大池は、原告事務所を訪問し、原告からパラジウムの本証拠金九九万円の預託を受けた。後日、被告会社は、原告に対し、委託証拠金預り証(乙二二)を送付した。
次いで、被告大池は、原告に対し、関門コーンの追い証に対する対処の相談を行い、更に、被告浦浜が、原告に電話で、追い証を入れるよりも東京コーンの売建玉をして関門コーンと東京コーンの両建としてしばらく様子をみることを勧めたところ、原告はこれに同意し、被告らに対して、東京コーン一四枚の新規売付けを委託した。
右原告の注文は、同日の後場一節で一万七四五〇円で成立した(甲三の五)。
右本証拠金一四〇万円については、原告が一週間以内に支払うということで双方合意した。
(一〇) 平成八年二月八日
被告浦浜が、原告に電話で、前日の後場から東京コーンが値上がりし、原告に損失が生じたため、売建玉を増やして売値平均を上げるために、東京コーンの売増しを勧めた(難平)。そこで、原告は、被告浦浜に対し、東京コーン七枚の新規売付けを委託した。
右注文は、前場三節で一万八〇三〇円で成立した(甲三の六)ため、被告浦浜は、原告に対し電話で取引の成立を報告し、併せて、前日の売建玉一四枚とこの日の売建玉七枚の計二一枚の東京コーンの本証拠金二一〇万円を請求した。右金員につき、原告は翌週に支払うと言い、被告浦浜はこれを了承した。
(一一) 平成八年二月一三日
原告は、被告会社に対し、前記東京コーン二一枚の本証拠金二一〇万円を振込みにより送金した(乙二三)。
被告大池は、原告に対し電話で、関門コーンの買建玉のうち利益が出ていた建玉を決済して、値下がり見通しを持っていた東京コーンの売建玉を増やすことを勧めたところ、原告は、これを了承し、被告大池に対し、同年一月四日買建玉の関門コーン七枚の売り決済と、東京コーン八枚の新規売付けを委託した。
右注文は、同日、関門コーンの決済注文が一万八五六〇円で、東京コーンの新規注文が一万七八八〇円で成立した。右決済注文の成立により、一六万〇七一六円の帳尻益金が発生した(甲三の七)。
(一二) 平成八年二月一四日
同日前場一節で東京コーンが値上がりし、このまま大引けまでいくと農水グループの建玉に追い証が発生する状況となったため、被告浦浜は、原告に対し、右状況を説明するとともに、東京コーンの買建て(両建)をして様子をみようと勧めたところ、原告は、被告浦浜に対し、東京コーン二二枚の新規買付けを委託した。
右取引は、前場三節一万八〇九〇円で成立した(甲三の八)ため、被告浦浜は、原告に対し、右取引の成立を報告し、併せて右東京コーンの建玉の不足証拠金として二一三万九二八四円を請求した(乙三三の七)。
(一三) 平成八年二月一五日
被告大池が、原告に対し、金が値下がり傾向にあることを説明して金の売付けを勧めたところ、原告は、被告大池に対し、金一二枚の新規売付けを委託した。
右注文は、同日一三七四円で成立した(甲三の九)ため、被告大池は、原告に対し、右取引の成立を報告し、併せて前日の東京コーンの建玉の不足証拠金二一三万九二八四円及び右金の建玉の本証拠金七二万円の合計二八五万九二八四円を請求した(乙三三の八)ところ、原告は、右金員を翌週に支払う旨約した。
(一四) 平成八年二月一九日
原告は、被告会社に対し、同年二月一四日建玉の東京コーン二二枚の本証拠金(二二〇万円)の不足分二一三万九二八四円と同月一五日建玉の金一二枚の本証拠金七二万円の合計に対する入金として、二八五万九二八四円を振込みにより送金した(乙二四)。
被告浦浜は、原告に対し、東京コーンとパラジウムの値段が上がったので売り仕切りで利食いし、ゴムの買付けを勧めたところ、原告は、被告らに対し、同月一四日に買建玉した東京コーン二二枚の売り決済、平成七年一二月一九日に買建玉した三〇枚のパラジウムの残玉一〇枚及び平成八年二月二日買建玉したパラジウム二〇枚のうち一〇枚を売り決済して(計二〇枚決済)、東京ゴム二六枚の新規買付けを委託した。
同日、右各注文が成立した。その結果、東京コーンの決済により一四一万一六三四円の帳尻利益金が発生し、右益金とこれまでの農水グループに発生していた帳尻累計益金一六万〇七一六円を通算すると、益金は一五七万二三五〇円になった。また、パラジウムの決済により計六二万一二四四円の帳尻利益金が発生し、右益金とこれまでの通産グループに発生していた帳尻累計損金一一万九七四〇円を通算すると、五〇万一五〇四円の帳尻累計益金になった(甲三の一〇、一一)。
被告大池は、原告に対し、右益金の一部を東京ゴムの本証拠金一五六万円に充当するために証拠金勘定に振り替えることを報告し、原告の了承を得た。
(一五) 平成八年二月二〇日
東京コーンの暴騰により、三回目の追い証発生見込みとなった。そこで、被告大池は、原告に対し、関門コーン残建玉七枚の難平として同一〇枚の新規買付けを勧めたところ、原告は、被告大池に対し、右買付けを委託した。右建玉の本証拠金は、右関門コーンの買増しにより、本証拠金総額が増え、農水グループにかかっていた二回目の追い証拠金が外れるため、その追い証拠金分で足りた。
更に、被告大池は、原告に対し、右余剰となった証拠金を東京ゴムの買増しにあてるよう勧めたところ、原告は、被告大池に対し、東京ゴム六枚の新規買付けを委託した。
同日、右注文各取引が成立した(甲三の一二)。
(一六) 平成八年二月二一日
被告浦浜は、原告に対し、東京コーンが値上がり見通しのため、同新規買付けを勧めたところ、原告は、被告浦浜に対し、東京コーン二三枚の新規買付けを委託した。右注文取引の成立により、東京コーン売建玉二二枚の残玉との両建となった。なお、右新規買付けの本証拠金には、農水グループにかかっていた一回目の追い証が外れることにより余剰となる証拠金を充てた。
(一七) 平成八年二月二二日
原告が買建玉していた九七年二月限の関門コーンがストップ安になったため、関門コーンの値洗い損が生じ、農水グループに一回目の追い証が発生し、不足証拠金が三四四万七一二二円となった(乙三三の一〇)。
(一八) 平成八年二月二三日
原告浦浜が、原告に対し、関門コーンの追い証の措置につき、追い証を入れないで両建にして相場状況の様子をみることを勧めたところ、原告はこれを了承し、被告浦浜に対し、関門コーン一八枚の新規売付け、東京コーン七枚の新規買付けを委託した。
被告浦浜は、原告に対し、右注文取引の成立を報告するとともに、右建玉の本証拠金不足分二四九万七一二二円を請求したところ、原告は、翌週中に支払う旨約した。
更に、被告浦浜は、原告に対し、神戸ゴム一〇枚の新規買付けを引け後節(午後五時開始)で実行することを勧誘したところ、原告は、被告浦浜に対し、同買付けを委託した。右本証拠金は六〇万円であったため、原告が支払うべき証拠金額は、前記コーンの不足証拠金と併せて三〇九万七一二二円となった。
(一九) 平成八年二月二八日
原告は、被告会社に対し、前記不足証拠金三〇九万七一二二円を振込みにより送金して支払った(乙二五)。
被告浦浜は、原告に対し、関門コーンについては買玉を増やして買建玉の買値平均を下げ、東京コーンについては売玉を増やして売建玉の売値平均を上げるために建玉をすることを勧め、原告はこれを了承した。そして、その証拠金資金として、通産グループの建玉を決済し、余剰となる証拠金を使用することとした。
通産グループの建玉は、パラジウム一〇枚、金一二枚、神戸ゴム一〇枚、東京ゴム三二枚であったところ、金に利益が乗っており、パラジウムとゴムは値洗い損となっていたが、被告浦浜は、原告に対し、金の利益で損失を一部カバーすることとして、金、パラジウム及びゴムを決済することを勧めた。
そこで、原告は、被告浦浜に対し、二月二日建玉のパラジウム買残玉一〇枚全部の決済、二月一五日売建玉の金一二枚の決済、二月一九日買建玉の東京ゴム二六枚の決済、二月二六日買建玉の神戸ゴム一〇枚の決済、関門コーン二〇枚の新規買付け、東京コーン一三枚の新規売付けを委託した。
同日、右注文取引が成立し、金が益金四一万一一三三円、パラジウムが損金一〇万四八七九円、神戸ゴムが損金一五万三三六一円、東京ゴムが損金二一万六七四一円であり、差引損金六万三八四八円であった(甲三の一六、一七)。
被告浦浜は、原告に対し、右帳尻金状況を報告するとともに、コーン三三枚分の証拠金として三三〇万円を通産グループから農水グループに振り替えることを伝え、原告はこれを了承した。
(二〇) 平成八年二月二九日
被告浦浜は、シカゴ商品取引所のコーンが値上がりしたことからコーンの値段は天井と判断し、原告に、今後は値下がりするとの見通しを述べ、コーンについて売建玉に比重を置くことを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、同被告の指示により関門コーン二七枚の売仕切り、東京コーン三〇枚の売仕切り、関門コーン六〇枚の新規売付けを委託した。右取引の注文は同日各成立し、差引七六万九三九九円の帳尻益金が出た(甲三の一八)。
更に、被告浦浜は、原告に対し、東京ゴムよりも神戸ゴムの方が値上がり傾向が強いとの見通しを述べ、東京ゴム六枚の売り決済、神戸ゴム一二枚の新規買付けを勧めたところ、原告は、被告浦浜に右取引を委託し、同日右注文が成立した(甲三の一九)。右神戸ゴムの新規買付けには、東京ゴムの決済により余剰となる証拠金と関門コーンの売り決済による帳尻利益金の一部とを証拠金として使用した(乙二六)。
(二一) 平成八年三月一日
被告浦浜は、原告に対し、二月二九日に買建玉した神戸ゴム一二枚を決済して、当面コーン一本に絞ることを勧めたため、原告は、被告浦浜に対し、右神戸ゴム一二枚の決済を委託した。
同日、右注文が成立した(甲三の二〇)。
(二二) 平成八年三月四日
前場一節、二節で、関門コーンが三月一日より更に値下がりした。
被告浦浜は、原告に対し、コーンは値下がりより値上がり傾向の方が強いのではないかとの見通しを述べ、売建玉を減玉して買建玉を増やすことを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、二月二三日売建玉の関門コーン一八枚の決済、二月二九日売建玉の関門コーン六〇枚の決済、東京コーン一二五枚の新規買付けを委託した。
同日、右取引が成立し、帳尻利益金が計五七一万四八三九円発生した(甲三の二一)。
被告浦浜は、原告の了解を得て、農水グループの帳尻利益金から一三万六〇二九円を通産グループの帳尻損金に振り替え、通産グループの帳尻累計損金を精算するとともに、帳尻利益金から三九八万円を農水グループの預り証拠金に振り替えた(乙二七)。
(二三) 平成八年三月五日
被告浦浜は、原告に対し、前場二節で東京コーンが下がったが、今後は値上がりするとの見通しを述べ、東京コーンの売建玉四二枚を決済することを勧めた。更に、被告浦浜は、原告に対し、右買決済の見通しが外れて値下がりする場合を考え、右決済により余剰となる証拠金を使用した関門コーンの新規売付けを勧めた(いわゆる「売直し」)。そこで、原告は、被告浦浜に対し、東京コーンの売建玉四二枚の決済及び関門コーン三〇枚の新規売付けを委託し、被告浦浜はこれを受託した。
右注文は、東京コーン二月一三日の売建玉の八枚の決済を除いて成立した(右決済は指値のため不成立となった)。その結果、差引四四万四三六一円の帳尻損金が発生し(甲三の二二)、帳尻金勘定の累計は、農水グループにおいて、一一八万二九八五円の益金状況となった。
(二四) 平成八年三月六日
関門コーンの寄付(前場一節)が、値下がりした。
そこで、被告浦浜は、原告に対し、関門コーンの売増しを勧め、原告は、被告浦浜に対し、関門コーン三七枚の新規売付けを委託した。
同日、右取引が成立し、帳尻利益金を証拠金に使用したが、不足証拠金として二一一万七〇一五円が発生した(乙三三の一四)。
(二五) 平成八年三月八日
東京コーンが、前場から後場にかけて値上がりした。
そこで、被告浦浜は、原告に対し、東京コーンの買増しを勧めたため、原告は、被告浦浜に対し、東京コーン一〇枚の新規買付けを委託した。
同日、右取引が成立し、被告会社は、原告に対し、不足証拠金合計三一一万七〇一五円を請求し、原告は、右不足証拠金を週明けに支払う旨約した。
(二六) 平成八年三月一一日
原告は、被告会社に対し、不足証拠金三一一万七〇一五円を振込みにより送金して支払った(乙二八)。
被告浦浜は、原告に対し、コーンが前場の状況から値上がり具合が弱いので、値段は天井に近いとの見通しを述べ、東京コーンの買建玉をすべて決済して利益を確保し、更にその利益金を使用して関門コーンの売建玉をすること、二月一三日に建てた売玉八枚が値洗い損が出たまま残っていたため、これを決済して整理することを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、東京コーン買建玉一三五枚及び売建玉八枚の決済、関門コーン一九〇枚の新規売付けを委託した。
同日、右注文が各成立し、その結果、差引帳尻利益金は五九四万九〇〇三円となり(甲三の二五)、被告浦浜は、原告の了承を得て右帳尻利益金から五八八万二九八五円を証拠金勘定に振り替えた。その結果、委託証拠金の総額は二六七〇万円となった(乙二八)。
(二七) 平成八年三月一二日
被告浦浜は、東京コーンの寄付が前日比で九〇円高であったこと、これに対し、関門コーンは一〇円安であったこと、シカゴ商品取引所のコーンは若干上がっており、在庫が減って予想より引合いが多く輸出の好調さが裏付けられたことから、コーンが値上がりするのではないかとの見通しを持ち、前日の見通しを修正して原告に伝え、コーンの売建玉を一部決済して買いに回ることを勧めた(途転)。そこで、原告は、被告浦浜に対し、関門コーン売建玉二二〇枚の決済及び東京コーン二一四枚の新規買付けを委託した。
同日、右注文が各成立し、差引帳尻損金は一七五万三六七九円となった(甲三の二七)。
(二八) 平成八年三月一三日
被告浦浜は、原告に対し、東京コーンの買建玉を決済して、上がり方が大きい関門コーンを買付けることを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、東京コーン買建玉二一四枚の決済及び関門コーン二一七枚の新規買付けを委託した。
更に、被告大池は、原告に対し、神戸取引所の生糸の値上がり見通しを述べて、神戸生糸の買付けを勧めたため、原告は、被告大池に対し、神戸生糸一五枚の新規買付けを委託した。
同日、右注文が各成立した(甲三の二八、二九)。被告会社は、原告に対し、不足証拠金七〇万五三七三円を請求した(乙三三の一七)。
(二九) 平成八年三月一五日
被告浦浜が、原告に対し、神戸ゴムの買付けを勧めたところ、原告は、被告浦浜に対し、神戸ゴム一二枚の新規買付けを委託した。
同日、右注文が成立し(甲三の三〇)、被告会社は、原告に対し、不足証拠金一四二万五三七三円(前日の神戸生糸の不足金とこの日の神戸ゴムの委託本証拠金七二万円)を請求した(乙三三の一九)。
(三〇) 平成八年三月一八日
原告は、被告会社に対し、三月一三日に発生していた不足証拠金の支払として、七〇万円を振込送金した(乙二九)。
この日、シカゴ取引所のコーンは六セント安となっており、前場において関門コーンがストップ安気配の値下がりをし、このままでいくと原告の建玉に追い証が発生する状況となった。そこで、被告浦浜は、原告に対し、コーンの建玉を縮小すべきことを告げ、関門コーンにつき、同月六日売建玉三七枚のうち七枚の決済、二月二〇日買建玉一〇枚の決済、三月一三日買建玉二一七枚のうち六七枚の決済を勧め、原告は、これを了承した。
同日、右注文が成立し、合計五六六万九一六六円の帳尻損金が発生した(甲三の三一)。
ところが、後場二節で更にコーンが値下がりし、右建玉の縮小によっても追い証発生の可能性が抜け切らない状況となった。そこで、被告浦浜は、原告に対し、関門コーンの売建玉をして様子をみることを勧めた。原告としては、更に七九九万円余の証拠金を入れて取引することに抵抗があったが、被告浦浜が、右不足金を支払わないと建玉を全て処分されて大変なことになる旨述べたため、偶々同月二七日に実行されることになっていた融資金を充てることとし、被告浦浜に対し、関門コーン一〇〇枚の新規売付けを委託した。
同日、右注文が成立し、その結果、七九九万四五三九円の不足証拠金が発生した(乙三三の二〇)。
被告会社は、原告に対し、右不足証拠金を請求し、原告は、被告会社に対し、不足証拠金を同月二五日に支払うので待って欲しい旨述べた。
(三一) 平成八年三月二五日
原告は、この日に同月一八日発生の不足証拠金を支払う旨約していたが、支払うことができなかった。そこで、被告浦浜は、原告に対し、本日までに入金が無理であるならば、建玉を一部整理するしかないと述べて、原告の了解を得た。
被告浦浜は、関門コーンにつき、三月一三日買建玉二一七枚の残一五〇枚のうち五〇枚の決済、及び三月一八日売建玉一〇〇枚の決済を行った。
右決済により、合計六九二万五一五五円の帳尻損金が発生した(甲三の三二)が、原告の不足証拠金はなくなった。
(三二) 平成八年三月二六日
被告浦浜は、原告に対し、神戸生糸が値上がりして原告の建玉に利益が出ていることを報告し、今後は値下がりするのではないかとの見通しを述べ、神戸生糸を決済して、その利益と併せて売建玉をすることを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、神戸生糸一五枚の決済及び神戸生糸三〇枚の新規売付けを委託した。
同日、右注文が成立し、帳尻益金七四万一四五二円が発生した(甲三の三三)。
(三三) 平成八年三月二七日
被告浦浜は、原告に対し、同日午前、電話で、神戸生糸が値下がりして利益が出ていることを報告するととともに、その決済を勧めたため、原告は被告浦浜に対し、神戸生糸三〇枚の決済を委託した。
同日、右注文が成立し、一六万八八五八円の帳尻益金が発生した(甲三の三四)。
さらに被告浦浜は、今後コーンは値下がりしていくとの見通しをもっていたため、同日午後、原告に対し、関門コーンの買建玉を整理し、売建玉を増やすことを勧めたところ、原告はこれを承諾した。
被告浦浜は、三月一三日買建玉の関門コーン二一七枚の残一〇〇枚の指値一万八六六〇円以上での決済、九七年四月限の関門コーン九〇枚の新規売付けを注文したところ、右決済注文は不成立となり、新規注文のみが後場三節一万八五四〇円で成立した(甲三の三四)。
原告は、被告浦浜に対し、四月半ばには一〇〇〇万円程の資金が必要なので、そのころには取引を縮小したいと申し向けた。
被告大池は、金額三五三九万四五三九円と記載した同日付けの委託証拠金預り証、残高照合通知書及び残高照合回答書を持参して原告方を訪問し、原告より七〇〇万円の小切手と九九万四〇〇〇円の現金を受け取り、引き換えに持参した右委託証拠金預り証を交付した(乙三〇)。
原告は、同日付けの残高照合回答書(乙三四の三)に署名捺印した。
(三四) 平成八年三月二八日
被告浦浜は、原告に対し、関門コーンの相場状況を報告し、関門コーンの値上がり見通しを述べ、同月二七日売建玉した関門コーン九〇枚を指値一万八四七〇円以下で決済することを勧めたため、原告は、被告浦浜に対し、右の通り委託した。
右注文は、前場二節一万八四七〇円で成立し、一万四八五〇円の帳尻益金が発生した(甲三の三五)。
ところが、被告浦浜は、関門コーンの戻しがにぶかったため、関門コーンが逆に値下がりするのではないかとの危惧を持ち、原告に対し、やはり関門コーンの売建玉を元に戻しておくよう勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、関門コーン九〇枚の新規売付けを委託した。
同日、右注文取引が成立した(甲三の三五)。
(三五) 平成八年三月二九日
被告浦浜は、原告に対し、やはり関門コーンは値上がりする旨見通しを述べて、売建玉の決済を勧めるとともに、右決済で余剰となる証拠金を使用して、値下がり見通しを持っていた関門小豆の新規売付けを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、関門コーン一二〇枚の決済、関門小豆一九九枚の新規売付けを委託した。
同日、右注文取引が各成立し、七六万〇一三五円の帳尻損金が発生した(甲三の三六)。
(三六) 平成八年四月一日
被告浦浜は、原告に対し、原告の建玉している関門コーンが寄付からストップ高であることを報告し、相場状況は天井に近いとの見通しを述べ、買建玉を全部決済し、売建玉をすることを勧め、関門小豆は見通しがはずれて逆に値段が上がっていたため、一部建玉を縮小することを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、同年三月一三日買建玉の関門コーン二一七枚の残建玉一〇〇枚の決済、関門コーン一二四枚の新規売付け、東京コーン四〇枚の新規売付け、三月二九日売建玉の関門小豆一九九枚のうち九九枚の決済を委託した。
同日、各注文取引が成立し、関門コーンの決済による帳尻益金二一九万五八五三円、関門小豆の決済による帳尻損金一七八万一三一八円が発生した(甲三の三七、三八)。
(三七) 平成八年四月二日
関門コーンは寄付からストップ高寸前となり、東京コーンは当限を除きストップ高となった。
被告浦浜は、原告に対し、電話で右相場状況を報告するとともに、今後の対策を打ち合せるために、被告小野が電話を代わった。被告小野は、原告に対し、翌日以降も値段が上がるようだと原告の建玉に追い証がかかる可能性があることを説明した。そして、被告小野は、原告に対し、関門小豆の売建玉を全部決済し、余剰となる資金を使用してコーンを両建にすることを勧めた。そこで、原告は、被告小野に対し、関門小豆一九九枚の残売玉一〇〇枚の決済、関門コーン三一枚の決済、関門コーン一〇〇枚の新規買付けを委託した。
同日、右注文取引が各成立し、合計一九二万四二一三円の損金が発生した(甲三の三九ないし四一)。被告会社は、原告に対し、不足証拠金二八一万九八〇八円を請求した(乙三三の二四)。
(三八) 平成八年四月三日
被告浦浜は、原告に対し、神戸ゴムがストップ安となり原告に追い証が発生したことを電話で知らせた(乙三三の二五)。
(三九) 平成八年四月四日
被告浦浜は、原告に対し、コーンの値段がそろそろ天井に近いとの見通しから、利益の出ている関門コーンの買建玉を決済していくことを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、四月二日買建玉の関門コーン一〇〇枚のうち一三枚の決済、東京ゴム一二枚の新規売付けを委託した。
同日、右注文取引が成立し、関門コーンの帳尻益金が四四万四一二七円発生した(甲三の四二)。
(四〇) 平成八年四月五日
原告は、被告会社に対し、二八〇万円を振込みにより支払った(乙三一)。
被告浦浜は、原告に対し、関門コーンの値段は天井に近いとの見通しから、関門コーンの買建玉を決済し、さらに売建玉することを勧めた。そこで、原告は、被告浦浜に対し、関門コーン八七枚の決済、関門コーン一〇六枚の新規売付けを委託した。
右売付け注文は、一〇枚が前場三節で一万九七一〇円、残九六枚が後場三節で二万〇一五〇円で成立した(甲三の四三)が、右後場三節の値段がストップ高であったため、関門コーンに追い証が発生した(乙三三の二七)。
関門コーン八七枚の決済により、三七五万五二一七円の帳尻利益金が発生した(甲三の四三)。
(四一) 平成八年四月八日
被告浦浜は、関門コーンの値段が寄付から下がり、相場がどちらに動くか予測がつかないため、原告に対し、とりあえず同月五日の売建玉を決済して利益を確保し、併せて同月一日の売建玉を損切りして整理することを勧めたところ、原告は、被告浦浜に対し、同月一日売建玉した関門コーン四五枚の残四三枚の決済及び同月五日売建玉した関門コーン九六枚の決済を委託した。
同日、右各注文が成立し、差引損金二二〇万五四二五円であった(甲三の四四)。
午後の立会において、後場一節で関門コーンが更に下がったことから、被告浦浜は、関門コーンの値段は天井を打ったと判断し、原告に対し、余剰となっていた預け証拠金を使用してもう一度建玉することを勧めたところ、原告は、被告浦浜に対し、関門コーン一四五枚の新規売付けを委託し、同日、右注文取引が成立した(甲三の四四)。
(四二) 平成八年四月九日
関門コーンが寄付からすべての限月でストップ高となり、原告の売建玉に追い証がかかる事態となった。
被告浦浜は、原告に対し、同日朝、電話で右相場状況を報告し、さらに被告小野が電話を代わった。被告小野は、原告に対し、コーンの売建玉を縮小し、併せて資金を八〇〇万から八五〇万円ほど追加して買建玉を行うこと、神戸ゴム及び東京ゴムをすべて決済して、余剰となる証拠金をコーンの建玉に使用することを勧め、神戸ゴム一二枚の決済、東京ゴム一二枚の決済、関門コーン一〇五枚及び東京コーン一〇枚の決済、関門コーン二〇枚及び東京コーン八〇枚の新規買付けを指示したところ、原告はこれを了承した。
同日、右注文取引が各成立し(甲三の四五、四六)、被告小野は、原告に対し、電話で、右取引が成立したこと、差引損金が合計一一二〇万三二九五円となったこと(甲三の四六)、通産グループの預り証拠金一四四万円から、八四万二〇〇七円をゴムの帳尻累計損金への充当として帳尻金勘定に振り替えること、残は農水グループに振り替えることを報告した。
その結果、原告の不足金は八二〇万九一八四円となった(乙三三の二八)ため、被告小野は、原告に対し、同額を請求した。
同日夕方ころ、原告の父親が、被告浦浜に対し、電話で「どういうことになっているのか話を聞きたい。」と申し入れたため、被告浦浜は、同日午後八時ころ、原告宅を訪問し、原告及び原告の父親と面談した。原告の父親は、「なぜそんなに金が要るのか、全部返してくれるのか。」と被告浦浜を詰問し、取引の苦情を述べ、資金は入れないという態度であった。原告も、被告浦浜に対し、従前から話していた資金が必要であり、さらに資金を入れるのは難しい旨述べたところ、被告浦浜は、原告らに対し、資金が入金されないのであれば建玉を決済せざるを得ない旨説明した。
被告会社は、通産グループの預り証拠金を帳尻金勘定に振り替えたことにより原告の預り証拠金現在高が減少したため、原告に対し、同日付けの委託証拠金預り証(乙三二)を送付した。
(四三) 平成八年四月一〇日
同日後場から一部の限月の関門コーンがストップ高になったため、被告小野は、原告に対し、関門コーンの売建玉三〇枚の決済を勧めたところ、原告はこれを了承し、被告小野に対し、同月八日売建玉した関門コーン一四五枚の残一〇〇枚のうち三〇枚の決済を委託した。
同日、右注文取引が成立し、帳尻損金が三四一万五一四八円発生し(甲三の四七)、原告の入金すべき不足証拠金は八六二万四三三二円となったため、被告会社は、原告に対し、右金員の支払を請求した(乙三三の二九)。
(四四) 平成八年四月一二日
原告は、不足証拠金の金策に努めたが、果たせず、同日、日本商品取引員協会に対し、原告と被告会社との取引をすべて決済したい旨伝え、原告の建玉のすべてが決済された。
被告小野は、同日午後六時ころ、原告宅を訪問し、原告に対し、同日付け残高照合通知書(乙三五の五)を示して、建玉をすべて決済したこと、帳尻金発生状況は、差引損金一〇四三万七七二四円であったこと、原告への返還可能額は九三万七九四四円であることを報告した。原告は、同日付けの残高照合回答書(乙三四の四)に署名押印した。そして、右残額九三万七九四四円が原告へ返還された。
3 本件取引の総括
本件取引の損益状況は、別紙三「値洗い、帳尻金及び預り証拠金等の状況対照表」の右端「実損益概算欄」記載のとおりであり、取引開始から平成八年二月中は損失が継続し、同年三月一日、初めて益に転じ、同月八日の時点で最高益(九三六万円)を記録し、同月一四日まで益が続いたが、同月一八日、再び損失に転じ、同年四月五日以降大幅に損が拡大した。
二 以上の事実関係の下で判断する。
1 本件取引は、形式的に見る限り、原告の意思に基づき行われたと言える(したがって、原告の無断売買の主張は理由がない)。
2 しかし、原告は商品先物取引の初心者であること、本件取引の具体的経緯から明らかなように、原告の発意でされた取引は一回もなく、すべて被告らの勧めるままに原告がこれを了承する形で、すなわち、被告らの主導で行われたこと、本件取引は平成八年二月初めころまでは取引の回数、枚数とも穏当であったが、二月中旬以降取引回数が多くなり(ほぼ二、三日に一回の割合)、それとともに枚数も増加し(二月二九日には一回の取引で六〇枚、三月四日には同じく一二五枚、三月一一日には同じく一九〇枚、三月一二日には二一四枚、三月一三日には二一七枚)、残玉数は、取引開始後二か月で一〇〇枚、同じく三か月で三〇〇枚に達したこと、本件取引の特徴は、追い証がかかると単純に追い証を入れ、又は損切りするのではなく、これを機に逆に取引が拡大されている点にあること、このため、決済により利益が出ても、出金されたことは一度もなく、すべて証拠金に振り替えられたこと、以上の結果、原告は、取引開始後四か月足らずで二五〇〇万円を超える出金を余儀なくされ、逆に、被告会社は一五〇〇万円を超える手数料収入を得たことに照らせば、被告らの取引勧誘は初心者に対するそれとしてはやはりやり過ぎであるとの感を免れず、全体として違法であると言わざるを得ない。被告らは、取引回数が多くなったのは相場が変動し、これに対応するためで、結果としてそうなったにすぎないと弁解するが、それならば、取引枚数を少なくして損失の拡大を防止すべきであるのに、本件取引においてこのような配慮がなされた形跡は見られない。
3 他方で、原告には、工場増築のための借入金の大半を本件取引につぎ込んだ点、最初の決済で損失を出し、商品先物取引のマイナス面を早々に体験したにもかかわらず、被告らの言うがままに取引を拡大することを選択した点において重大な過失があったと評価するほかなく、過失割合は、自己責任の原則にかんがみ、原告の過失が八割とするのが相当である。
4 そうだとすると、原告が本件取引により被った損金は二四七三万円余りであるから、その二割は四九四万六〇〇〇円となる。
弁護士費用は、五〇万円が相当であるから、結局、被告らは、原告に対し、各自、五四四万六〇〇〇円を賠償すべき義務がある。
三 よって、原告の請求は、主文第一項に掲げた限度で理由があるから、右の限度で認容する。
(裁判長裁判官髙柳輝雄 裁判官片野悟好 裁判官大村陽一)
別紙一〜三<省略>